2011年08月18日
縦割りが阻む復興…被災地に公共施設の廃虚群
縦割りが阻む復興…被災地に公共施設の廃虚群
東日本大震災の被災地で、津波被害から5か月が過ぎても、破壊された多くの公共施設が解体されずに放置され、がれきの片づけが進む現地でひときわ異様な光景となっている。
各省庁の復旧補助が同じ場所で建て替える場合を対象とし、解体だけすることを想定していなかったためだ。自力で解体する余力のない被災自治体からは、「国の制度には不備がある」「被災地のイメージを悪くする」などの批判が相次いでおり、政府は新たな補助の枠組み作りの検討を始めた。
津波で大部分が浸水した岩手県陸前高田市の中心市街地。がれきの約9割は撤去されて更地が広がるが、その中にぽつんと鉄筋4階建ての市役所庁舎が残る。4階の床上まで浸水して全壊状態だが、いまだに解体のめどは立たない。
「更地に戻さなければ、市街地の全体構想が描けない。当然、解体は国の補助だと思っていたが……」。同市財政課の熊谷正文課長は、そうこぼす。市街地で解体されていない被害建物の大半が公共施設で、市民会館や体育館、図書館、消防本部なども残る。小学校43校が解体されていない宮城県石巻市など被災地の多くの自治体で同様の状態だ。
政府は3月12日、東日本大震災の復旧事業に対する国庫補助の増額を決定。5月2日、財政支援を拡大する制度も施行した。これで、建物の復旧では原則3分の2を国が補助し、残りの大半も地方交付税などで補われることになった。
ところが、これらの制度は同じ敷地に施設を再建する「復旧」が前提。各省庁では「別の場所で建てた場合は補助の対象にならない」との見解が一般的だ。
これで困ったのが各自治体。陸前高田市内では地盤沈下の影響で、海岸線が約100メートルも後退した地域もある。熊谷課長は「今後の津波対策を考えれば同じ敷地での再建は現実的ではない」と指摘。このほかにも「現状では移転や補修の方向が決まらない」(岩手県岩泉町)、「被害を受けた建物を残したままでは復興の足かせになる。歯がゆい思いだ」(宮城県南三陸町)と不満が続出している。
しかし国側の反応は鈍い。総務省は市町村の庁舎については、仮庁舎の建設も補助対象としたが、「行政機能の復旧が目的で、旧庁舎の解体費は対象にならない」。学校の復旧を所管する文部科学省も「復旧補助の趣旨は『学校教育の円滑な実施を確保する』こと。解体費の補助はこの趣旨とずれる」と話す。
各省庁のしゃくし定規の対応には、閣内からも異論が出た。平野復興相は5日の閣議後会見で「(問題を)分かっていながら知らんぷりしている」と批判した。
こうした声に、政府もようやく重い腰を上げ、現在、環境省の災害廃棄物処理事業に公共施設の解体を含める対応を検討中。同省幹部は「既に他省庁の補助制度があったため、公共施設を対象外としていた。行政の縦割りがあったのは事実だが、復興の妨げにならないように、近日中には制度を固めたい」と話している。
(読売新聞 8月18日(木)14時54分配信)
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Posted by おだっちの菜の花油 at 17:29│Comments(0)
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